最近は様々な企業が持続できるビジネスを実現するために、自社の社会的な存在意義を考えて変革を目指しています。では、逆に思いきり利益を最大化する方向に舵を切ったらどのようになるのか?
その疑問に冷酷な現実をもって答えるのが、こちらの『アメリカン・プリズン』です。
全米150万人の受刑者のうち、約13万人を収容する民営刑務所。秘密主義に覆い隠されているその実態を明らかにするため、ジャーナリストの著者は、刑務官募集に応募して潜入取材を開始する。
出典:アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス – シェーン・バウアー/満園真木 訳|東京創元社
簡単に採用された著者が、ウォルマート並みの時給9ドルで勤務したのは、大手の刑務所運営会社が管理するルイジアナ州の刑務所。
小型カメラとレコーダーを隠し持っての勤務中、彼が目撃したのは、慢性的に人手不足で(刑務官1人あたり176人の囚人を担当)、トラブルには誰も手を出さず、経費節減のため医療費などの経費が切り詰められている衝撃的な現場だった――。
利益第一主義がもたらす歪みや非人間性。これらを暴露するのと並行して、著者は、奴隷制度を補完する形で民営刑務所制度が生まれた経緯や企業への囚人貸し出し制度など、アメリカの知られざる暗部を明らかにしていく。奴隷や囚人などの囚われた人々を利用して権力者が富を得ていく仕組みが、アメリカで脈々と受け継がれていたのだ――。
本書のもとになった潜入取材の記事が民営刑務所の闇を暴いたことで全米に衝撃を与え、実際に政治を動かすまでに至った、傑作ノンフィクション!
血肉をカネに変える民間刑務所という“ビジネス”
紹介されているのは、民間経営の刑務所という“ビジネス”。
『テスカポリトカ』の臓器密売の背景には、ブラッドキャピタリズム(血の資本主義)という考え方がありましたが、本書で扱われている民間経営刑務所も同じような血肉をカネに変える思想がある、と言ってよいかもしれません。
本書はジャーナリストを志す著者が、職業的な倫理を最低限守りつつどのように民間企業である刑務所に潜入し記録をするか、と工夫を凝らしていく探偵映画、スパイ映画的なところから始まります。
そして実際の民間刑務所の運営実態をルポルタージュしつつ、このような刑務所が発展してきた背景にある差別や刑務所が(更生ではなく)利益を生むことを目的とした施設として扱われてきたのか、という歴史的背景を紹介します。
マーケティング、ビジネスデザインの反面教師として◎
安い時給で危険な職場で働く人々の姿がリアルに描かれますが、実際に働いているシーンを想像すると震えます。遠い昔にレンタルビデオ店で働いていたことがありましたが、度々深夜に地元の未成年ヤンキーがグループで来店しアダルトビデオコーナーにたむろするので、社員とガチガチに喧嘩してたのですが、そこに同席することすら怖かったのに。
本書は実際にビジネスが人間性を無視して利益のみを追求していくと、いかに関係する人々を破壊しながら突き進んでいくことができてしまうのか、といったことをリアルに感じることができます。それによって、自分自身は少しでも、まっとうな仕事をしたい、と普段の自分の生活についても気を引き締めることができます(笑)。
また、民間企業に潜入し取材をしていくという部分で、リサーチの参考にもなります。このような自分とは異なる環境、文化に飛び込んで行う調査のことをエスノグラフィーなどと呼びますが、近年様々な企業がエスノグラフィーの要素を取り入れてマーケティングを行っており、私も関わることが多いので、そういった意味で調べるフィールドは違いますが、人々を観察する視点が示唆深いです。
Photo by Milad Fakurian on Unsplash
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