人外のコトワリで怪の輪郭を描きだす:加門七海『船玉さま 怪を書く怪談』

カルチャー

加門七海の『船玉さま 怪談を書く怪談』を読んだ。加門七海は『怪談徒然草』がとてもよかったので、新しい本を見つけたら大抵買っている。実はエッセイ的な実話怪談から入ったので、過去作の伝奇ものは気になりつつも、まだ読めていない。『人丸調伏令』面白いのだろうか。

『船玉さま 怪談を書く怪談』は、2013年に刊行されたメディアファクトリー版の『怪談を書く怪談』に加筆修正、書き下ろしを加え文庫化したもの。どうも読んでいて知っている話が多いなと思ったら、すでに読んでいたかも……。一時期『幽』も読んでいたので、そこで読んだのかと思っていた。

以下公式サイトの紹介文。

怪談実話のパイオニアが綴る恐すぎる実体験。書かれた”怪”は”怪”を招く
海が怖い。海は死に近いからーー。山では、「この先に行ったら、私は死ぬ」というような直感で足がすくんだこともある。海は、実際恐ろしい目にあったことがないのだけれど、怖い。ある日、友人が海に纏わる怖い話を始めた。話を聞いているうちに、生臭い匂いが立ちこめ……。(「船玉さま」より)海沿いの温泉ホテル、聖者が魔に取り込まれる様、漁師の習わしの理由、そして生霊……視える&祓える著者でも逃げ切れなかった恐怖が満載。「”これ本当に実体験! ?”と驚くことばかり。ぞくぞくします。」 高松亮二さんも絶賛の声! (書泉グランデ)文庫化にあたり、メディアファクトリーから刊行された『怪談を書く怪談』を『船玉さま 怪談を書く怪談』に改題し、書下ろし「魄」を収録。解説:朝宮運河

「船玉さま 怪談を書く怪談」 加門 七海[角川ホラー文庫] – KADOKAWA
画像出典:「船玉さま 怪談を書く怪談」 加門 七海[角川ホラー文庫] – KADOKAWA

文庫版のデザインはこちら。単行本版の力の抜けた感じも好きでしたが、イラスト、すごみのある美しさで怖さを出していて好きです。
カバーイラスト / 朱華
カバーデザイン / 坂野公一+吉田友美(welle design)

豊富な知識から怪事の輪郭を浮かび上がらせる

どの話も、怪事に対して現実的な視点と人外の世界の視点の両方のぎりぎりあわいのところから語るのが魅力的。怪事を語る際に「実はそこでは人が亡くなっていて……」と簡単に因果関係を結びつけてしまうとしらけてしまう。でも、加門作品だと、あくまでも現実的な視点で因果関係を結ぶのは保留しつつ、膨大な知識体系からの読み解きや見立てが入ってくる。それが「もしかしたら、本当にこの世ならぬものなのかもしれない」という期待を持たせてくれる。

収録作は表題の2作を含む13編。

  • 船玉さま
  • とある三味線弾きのこと
  • 郷愁
  • 誘蛾灯
  • カチンの虫
  • いきよう
  • 島の髑髏
  • 浅草純喫茶
  • 茶飲み話
  • 聖者たち(一)
  • 聖者たち(二)
  • 怪談を書く怪談
  • 魄(文庫書き下ろし)

大抵の収録作をすでに読んでいたとはいえ、日常の何気なく過ごしている毎日の裏側に、他のコトワリが影響を及ぼしているのかもしれない、というひんやりした気分を味合わせてせてくれる短編がたくさんで楽しめた。

個人的には日常と地続きの出来事から、豊富な知識によるさまざまな見立てを通して、怪を浮かび上がらせていく「船玉さま」「茶飲み話」や情緒たっぷりの艶のある「とある三味線弾きのこと」が楽しめた。

『浅草純喫茶』や『聖者たち(二)』では、純喫茶に対する思い入れや何故か人から異常にお裾分けされる体質についてなど、エッセイとしても楽しい。

加門七海の著作を読んでいると、昔の友人を思い出す。美術大学の先輩で、油画科に通っていた女性。日本的な美や風習を大事にしていて、どこかきりっとしていて、空気が周囲よりも0.5℃くらいひんやりしているような。あんまり怪談めいた話はしなかったけれど、もし水を向けていたら、この本みたいに「ああ、それはね……」とこの世ならぬコトワリを教えてくれたような気がする。

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