どこで評判を聞いたのか忘れてしまった。書店で見かけたのかもしれないし、周囲にSF好きが結構いるのでその中の1人から評判を聞いたのかもしれない。いや、書評を読んで興味を惹かれたような気もする。どちらにしても『三体』というシンプルなタイトルと装画イラストのインパクトに惹かれて読み始めた。
もう最近の生活環境では分厚い本をじっくり開いて読むことは不可能。なので、Audibleで家事をしながら深夜に少しずつ、というスタイルで読了(聴了?)した。
ちなみにAudibleだと登場人物名の読み方を覚える必要が無いので、 中国名が多い本作は音声コンテンツとして聞くのはストレスフリーでよかった。
『三体』とは
『三体』(さんたい)は、中華人民共和国のSF作家劉慈欣による長編SF小説。2006年5月から12月まで、中国のSF雑誌『科幻世界(中国語版)』で連載され、2008年1月に重慶出版社によって単行本が出版された。本作は「地球往事」三部作の第一作である。
出典:三体 – Wikipedia
本作、またこれを含む「地球往事」三部作(『三体』三部作ともいう)は中国において最も人気のあるSF小説の一つとされ、2015年時点で50万組以上を売り上げている[1]。また、本作は2014年11月にケン・リュウによる英訳が出版され、これも複数のSF賞にノミネートされるなど高く評価されている。2019年時点で全世界累計発行部数は2900万部を記録しており[2]、20か国以上の言語で翻訳されている[2]。
日本語版は2019年7月4日に早川書房より発売された。日本語訳は、光吉さくらとワン・チャイの共訳による原書からの翻訳原稿を、英語の翻訳が専門のSF翻訳家である大森望が、著者とケン・リュウの協議により変更の加えられた英訳版とも比較し改稿したものである[3]。
個人的にグレッグ・イーガンの『順列都市』や『ディアスポラ』など、も非常に楽しく読んだがSF好きというにはあまりに知識がない人です。アーシュラ・K・ル=グウィンの『ゲド戦記』なども好きなので、ル=グウィンのSF作品も何冊か読んでいますが古典的な作品をしっかり読んでなかったりします。
で、大森望さんのこちらの記事(劉慈欣『三体』は歴史を動かす一冊だ! – 新刊めったくたガイド|WEB本の雑誌)を読むと、三体の後半の展開について「超絶バカSF展開」と呼んでいて「SFに詳しい方からするとそういう認識になるのか」とちょっと驚きました。
また、原著が公開されてから既に11年半が経っているそうです。これにも驚き。すごく評判になっている作品なので、もっと時をおかずに翻訳されているのかと思っていました。
憶えていられないが、それがいい
結論からいうとものすごく面白かったが全然覚えていない(笑)。第一部から第三部でそれぞれさまざまなシチュエーションが描かれるので、ミステリー的な要素があったり、アクション的な要素があったり、ハードSF(?)的な要素があったり、ということで非常に飽きることなく楽しめた。
「第三部から読んでもよい」という意見もあるそう。それもありだと思うが、個人的には最初からじっくり読み進めて、忘れていったとしても積み重ねていった壮大な物語を下敷きにして、最後の壮大なエンディングまでの物語の飛距離を楽しむのがよいのではないだろうかと思った。
中国SFということで普段なじみのない中国文化に触れることができるのも飽きずに楽しめた面白いポイントだったような気がする。
とるに足らない人々、悪いできごとが反転する楽しさ
文化大革命のシーンから始まり、最後は非常に壮大なエンディングを迎えるのだが、さまざまな登場人物が入れ替わり立ち代わり登場しては消えていく(もちろん主要な登場人物は何名かいます)ので、いつの間にか「お気に入りの人がいなくなっている」ということがよくあった。
いろいろな登場人物が出てきて消えていく、そして読むほうも(私だけかも)覚えていられない——という部分は個人的にはそれもよかったです。J・R・R・トールキンの『指輪物語』が好きなのですが、物語全体を通して取るに足らない存在や悲劇的な出来事が実は全体の中では最終的に重要な役割を果たす、というメッセージが込められていると感じます。そして、それは現実の身の回りで起こっているさまざまな出来事も、いつかはよいことに繋がっていくのではないか、という希望を感じさせてくれます。
宇宙スケールの知的な気づきにゾクゾクする
この本で個人的にとくに面白く印象に残っているのは、鮮烈な抽象化、気づきです。抽象化というのは、さまざまな出来事の特徴的なポイントを抜き出して共通する要素をとらえること。ネタバレになるので詳細は控えますが(といってもいろいろなところで既に紹介されているのであまり心配しなくてもよいかもしれませんが)この宇宙は狩人が潜む暗黒の森林である、という気づきを得ることで、その後の物語がどんどん展開していくところです。知的な1つの発見で宇宙的なスケールで物事が動き出す展開は、人間の考える力の可能性を感じさせてくれて、とてもゾクゾクしました。
Photo by Casey Horner on Unsplash
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